差し伸べてくれる手が。つかんでくれる手が。
 狂おしいほどに恋しかった。




彼は彼女に手を差し伸べて、彼女は彼の手を取って






 衝撃波がそこにいた全員を襲う。
 激しく火花が散る。
 中にいるエステルがのけぞった。
「駄目…もう止まらない…っ。みんな逃げて……!!」
 ここにいたら、死んでしまう。
 どうか、どうか早く。
「大丈夫だ、仲間を信じろ!!」
 力に翻弄されながら、ユーリはそれに負けないように叫ぶ。
(どうして逃げてくれないんです?)
 もどかしい思いで、エステルはユーリを見た。
 生きていてほしい。自分のために命を捨てるようなことは絶対駄目。
 それが伝わっているはずなのに、彼はなおそこを動かない。
 意識が飛びそうになる。激痛で、いっそ気を失ったほうがいいくらいだ。
 だが気を失ったら最後、今度こそ暴走は止まらない。
 エステルはほとんど気力で制御を試みているのだ。
 火花の音の合間に、彼らが話しているのが分かる。
 ――――だめって、言っているのに。
 何かを決めたように、四方に仲間たちが散る。
「みんな…もう…」
 ユーリがエステルに近寄った。
 体がすでに限界のはずなのに、笑みを浮かべて。
「言ったろ、信じろって。凛々の明星はやるときゃやる。…そんな顔するなって」
 ――――助けてやる、エステル。
「生きたいんだろ。…ならオレが叶えてやるよ」
 絶対に。だから、もう泣くな。
 嘘でも虚勢でもなく、ユーリは断言した。
「……はい!」

 リタを中心に円陣が現れる。
 それとほぼ同時に、他の五人の周りにも。
「ユーリ! 剣を!」
 リタの叫びに、ユーリが気合とともに剣を掲げる。
 エステルは目を閉じたまま、心の中で呟く。

 大丈夫。ユーリを、みんなを信じてる。

 カッと一際強く球体が光り、全員の視界が白く染まる。
 城を中心に暴走していた力が四散する。

 戻り始めた視界に、エステルがふわりと落ちてくる。
 それをしっかり抱きとめ、そのままユーリは後ろへ倒れこんだ。
 呼吸は浅いが確かに生きている彼女を、ユーリはぎゅっと抱きしめた。
 それに応えるように、エステルもユーリを抱きしめ返す。

 そう、いつだってあなたがそうやって手を伸ばしてくれるから。
 私は生きることをあきらめられなかった。あきらめずにすんだの。

「……おかえり」
 常よりいささか疲弊した、低くて優しい声。
「……ただいま」
 小さくて消えそうな、それでも聞きなれた柔らかな声。

 離れていたのは短い時間。
 けれどこのぬくもりが、差し出してくれる手が、――――つかんでくれる手が、
声が、なにもかもが恋しかった。
 離れていると不安で、怖かった。
 逃げてと叫びながら本当はさびしくて。
 助けてやると約束した手が届かなかったのをずっと責めていた。

「……心配した」
「はい」
「もう勝手に一人でどっかに行くなよ。追いかけるのが一苦労だ」
「……はい…っ」

 頭上には、どこまでも澄み渡った青空が広がっていた。





終わりました。長くなりました。
なんかすごく好きなシーンなぶん、いろいろ付け足していったらこんな長くなって
しまって…!! でも、表現したいことは全部書けたから満足です。
ユリエスはもっとラブラブでもいいと思うんですがどうですか。