Flower×Flower


    
    
    
    
    
    
    

 

 

 


 ときどき、この姫様が何を考えているのか分からなくなる。

 

 

 

        
                                  

                  Flower×Flower        
        
        
        
        
        
        
        
「ユーリ!」        
 振り返ると、満面の笑みを浮かべたエステルがいた。        
「なんだ、そんな嬉しそうな顔して」        
「見てください! さっきカロルとお買い物してたら、近くにいた花屋の方がくださったんです」
 エステルの手に握られていたのは、オレンジの5つの花弁の花だった。
 名前は知らない。エステルは知ってるかもしれねぇな。
「よかったじゃねぇか。にしても売り物の花をほいほい渡して大丈夫なのかよ、そいつ」
 それが、と困ったようにエステルは首をかしげた。
「お金はいいって言われてしまって…。あ、でもどうしてもっていうならここに来て
くれればいいって言われました」
 夜遅くなりますし、仲間に聞いてからにしますっていって別れました、と続ける。
 見せられた紙切れには今夜7時にどっかの店(たぶんろくでもねぇ場所)の名前。
 ……明らかにやばいだろ、これ。
「ユーリ?」
 不思議そうな目をして、エステルが見上げてくる。
 ……本当にこのお姫様は疑うってことを知らねぇな。こっちがトラブルに巻き込まれるたびに
肝冷やしてること、いい加減気がついてほしいもんだ。
「やめとけ。その花屋がつぶれちまったらどうするんだ」
 紙切れをクシャリと握りつぶして、ため息混じりにオレは言った。
「確かに困ります。だから、今度はきちんとお金を払ってきます。…ユーリが来てくれれば、心
強いんですが…。駄目ですよね」
 こぶし握り締めて、なに言ってるんだおまえは。
「……あのな、エステル。たとえばケーキにもいろいろ種類があるよな。ガトーショコラとかイチゴ
ショートとかさ」
「え? ええ」
「でもケーキってだけじゃ何を指してるかわかんねぇよな」
「そうですね。…どういうことです?」
「だからさ、お代も同じなんだよ。単に金のこと言ってるならいいが、物々交換もありだろ?」
「よくわかりません…」
 そりゃ、理解できるように言ってないしな。とか言ったらまた「ユーリは意地悪です」とか言わ
れそうだから黙っとこう。
「エステルはオレの隣にいればいいだろ」
 ポンポンと頭を軽くたたく。…なんか顔赤くないか?
「…は、はいっ。絶対離れません!」
 いや、そんな決意した目で見られても…なんか変なこと言ったか?
「じゃあ、リタとジュディスのぶんはどうしましょう」   
 赤くなったままエステルが言った。   
「そこらへんで摘んでくればいいんじゃねぇか」   
「もうっ。ユーリったら」   
「街の外にたしかあったろ。そこなら付いてってやる」   
 少し考えたあと、エステルはうなずいた。   
   
     ♡
   
「きれいです! ユーリ、どうしてここを知ってるんです? みんなで通りましたか?」   
「んー、まぁちょっとな」   
 フェローに会ってから沈みがちだったから、いつか連れてこれたらいいと思っていた。   
 メンバーと別行動をしているときに、街の人間に聞いて。   
 でもこんなに早く来るなんてのは、さすがに予想しなかった。   
 大きな木が中央にあり、あたりには白い花が咲いている。綿毛のようなものがふわふわと   
漂い、それが日の光を浴びてキラキラ光っている。   
「オレはその辺にいるから、気が済んだら呼んでくれ」   
「はいっ」   
   
     ♡

   
「あんまり摘むと花もかわいそうですよね…。滞在するのはあと一日ですし…」   
 二輪だけ摘み、エステルは立ち上がった。   
「……本当にきれい…。ユーリに感謝しなくては」   
「そりゃどーも」   
 口から心臓が飛び出るほど驚いて、エステルは振り返った。   
「ユーリ! もう、驚かせないでください」   
「悪い悪い。で、満足か?」   
「はい。ありがとうございました、ユーリ」   
 満面の笑みでエステルは言った。   
 それに少し目を瞠ってから、髪をかきあげながらあらぬほうを向く。   
(ったく、厄介な奴を好きになっちまったもんだぜ)   
 自分もほとほと恋愛には疎いが、エステルはそれを上回って奥手だ。
 だが、ハードルがあるのは嫌いじゃない。
 ふっと笑ってから、ユーリはからかうように言った。
「そうやって笑ってると、エステル自身が花みたいだな」
 みるみるエステルの頬が朱に染まっていく。
 それを見ていたユーリが噴き出す。
 彼女を見て勝手に照れたのは自分だが、なんとなく悔しくてついからかってしまう。
 こういう素直な反応にまた愛しさがこみ上げてしまうのだから、本当に自分はどうかしている。
「ユーリは意地悪ですっ」
 顔を横に向けたエステルに、ユーリは笑ったまま謝る。
「ごめんって。そんな顔するなよ」
「わたしは怒ってるんです! そんな簡単に許してあげませんから!」
 背を向けて街のほうへ歩き出してしまったエステルに、ユーリはのんびりついていく。
「エステルー」
「ユーリなんて知りません。わたしがこうしている間は何言ったって駄目ですから」
 こういう時、エステルはとても幼くなる。そして頑固だ。
 さすがに困ってきたユーリは、さてどうしようかと考えた。
 このまま帰ると、リタとジュディスから冷たい視線を向けられそうだ。        
 しばらく考えたあと、ユーリはふとひらめいた。        
 振り向くのが待てないなら、振り向かせればいいだけだ。        
「エステル」        
「……」        
「好きだ」        
 ピタッとエステルが立ち止まる。がばっと振り返ったエステルは、彼女のピーチブロンド        
の髪よりも頬を染めていた。        
「……っ!!」        
 してやったり、といった顔でユーリは唇の端を上げる。        
「ゆっ、ゆっ、ユーリ! な、何を、突然何言ってるんです!?」        
「そのままの意味だよ。それより、もう許していただけるのかな、姫君?」        
 振り向いたな、とユーリは笑った。        
「あ……。か、からかったんです!?」        
「まさか」        
 100%本気なのに、とユーリは心の中でつぶやく。        
 ムードもへったくれもないが、自分はこういう状況でもなければ言えない。        
「で、許してもらえるか?」        
「…もう、いいです。ユーリですから」        
 はぁ、とため息をついてから、エステルは仕方がないというように笑った。        
        
     ♡     
        
「……あーっ。二人ともどこ行ってたのよ! 探したんだからね!!」        
 宿まで戻ってくると、受付の近くのソファに座っていたリタが憤然としながら叫んだ。        
「ごめんなさいリタ。ちょっとユーリとお花畑に行ってたんです。ほら」        
 差し出した花を見て、リタが目を丸くした。        
「これ…?」        
「カロルと買い物をしているとき、お花屋さんに一輪だけもらったんです。でもそれだとリタや        
ジュディスの分がないから…。それで、花畑にユーリが連れて行ってくれたんです」        
「あら綺麗ね。ありがとうエステル」        
「あ、ありがと」        
「おっさんとカロルとラピードは?」        
 ジュディスが首をかしげた。        
「ラピードは2階のあなたの部屋。レイヴンとカロルは街を歩いてくるって出て行ったわ」        
「もう日も暮れるのにか?」        
「すぐに帰ってくるわよ、きっと。それより、花を生けてこないといけないわね。行きましょ」        
「そうね。このまま手に持ってても枯れちゃうし」        
 リタがうなずいて、ジュディスとともに階段を上がっていってしまった。        
「エステルも行ってこいよ。オレはここであいつらが帰ってくるの待ってる」        
 ポン、とエステルの背を押す。        
「あの、ユーリ」        
「ん?」        
「今日はありがとうございました。じゃあ夕飯のときに」        
 一礼してエステルが階段なところまで小走りで行く。        
 それを見送ってから、リタとジュディスがいたソファに腰掛けた。        
 不意に背中に軽い衝撃がきて、同時に後ろから腕が回された。        
 …なんだ?        
 振り返ると、エステルの顔がすぐ近くにあった。        
 突然の事態にぎょっとして、無駄な抵抗と知りつつ顔を遠ざける。        
「おま…っ」        
「好きです」        
 真っ赤になりながらエステルがつぶやく。        
 ……は?        
「…さっきの意地悪のお返しですっ
」        
 それじゃ、と言ってエステルが今度こそ階段を駆け上っていく。        
 残されたオレは呆然としてそれを見送った。ちょっと待て、今何が起こった?        
 混乱した頭でまとめた結論としては、とりあえずエステルに好きと言われたということ。           
 常になく動揺していることに思わず頭を抱えた。        
「ったく、何考えてんだよあのお姫様は…」

 ときどき、あのお姫様が何を考えてるのか分からなくなる。
 反撃は予想外だった。しかも強烈な一撃。
 悔しいが今回は完敗だ。……だが。
(覚悟しろよ、エステル)
 自分を本気にさせるとどうなるか、見せてやる。       
 あの言葉がどんな意味を持とうと関係ない。    
「勝ち逃げなんてさせないぜ」       
       
       
 そう、振り向かないなら、振り向かせればいいだけだ。     
 


ユリエスは大好きだけど、文にするのはなかなか難しいです…。

(おもにどの辺までエステルにアプローチするかとか、ユーリはどこでときめくんだろうかとか←ユーリのことばっかり

書いてて恥ずかしくなっちゃうんですよー。読むのは平気なのに。でも今回のはちょっと甘くなった…かな?

なってるといいなぁ。