仄かなぬくもりは、冬の贈り物

まず舞台設定から。
クレス…親元を離れて一人暮らし中。あるきっかけでミントと出会う。17歳。
ミント…クレスの住居の隣の市に、母親と一緒に住んでいる。18歳。
現在二人は交際3ヶ月目。
それでは本編へどうぞ↓↓

 

 冬の日に

 もう何度目になるだろう。
 腕時計を見て、それから確かめるように店内の壁時計を見る。
 出入り口に近い、2人がけのボックス席。
 右側の窓から外を見てから、ミントはゆっくり紅茶を飲んだ。
 ダージリンティーの熱は、ほとんど解けている。

 久しぶりに会えることになった彼との待ち合わせ場所はいつもこの喫茶店。
 迷うことなど、絶対ないのに。
 ――――彼が来ない。
 いつもなら待ち合わせの時間の15分前に来ているはずの彼は、
今日は指定した時間の1時間を過ぎても現れない。
(昨日の電話の後に風邪にかかったとか…もしかして事故…!?)
 連絡がないのは、そのせい?
 律儀な彼――クレスは、約束の時間に遅れそうになると必ず連絡をくれる。
 といっても、今日は15分前にはつけない、ごめん、といった内容なのだが。
 前にそれをアーチェに話したら「待ち合わせの時間決める意味なくない?」
と渋い顔をされたけれど、早く会いたいのが自分だけではないという証明に
思えて、ミントは「意味はありますよ?」とだけ返した。

(ここで待つより、いっそクレスさんの家に行ったほうが…ああでも、女性から
男性のもとに行くなんて軽率でしょうか…。クレスさんがもしこちらに来ている
なら、行き違いになっても…)
 どこまでも続くと思われた螺旋状の思考は、ティーカップの横の携帯電話の
ライトで終わった。
 ひっつかむと言ってもおかしくない勢いで電話を開き、受話ボタンを押す。
「クレスさん!」
『ごめんミント! 連絡が遅くなって。今どこにいる?』
 変わらない穏やかな声音に、ミントは涙が出そうになった。
 風邪でも、事故に遭ったのでもなかった。
「いつもの喫茶店です。なにかありましたか?」
『うん。実は…。とりあえずあと1、2分で着くから、もう少し待っててくれ』
「はい。お気をつけて」
 終了ボタンを押して、ミントは肺が空になるまで息を吐き出した。
(よかった…)
「お、もしかして彼、もうすぐ来るの?」
 馴染みのマスターがカウンターから声をかけてくる。
「はい」
「よかったねぇ。ミントちゃん、だんだん顔色が悪くなっていくから心配したよ」
 マスターが「なあ?」と近くのウエイトレスに同意を求めた。
「はい。あ、クレスさんはコーヒーでいいですね」
「ありがとうございます。ご心配をおかけしてごめんなさい」
 恥ずかしくなって、ミントはうつむく。
 マスターは笑いながらひらひら手を振った。
「いいっていいって。ああ、ほら。王子様が来たよ」
「え!?」
 ミントが顔をあげると同時に、ガラガラン! といささか荒いドアの鐘が鳴った。
「ミント!!」
 息も絶え絶えなクレスが開口一番に叫んだ。
 そのまままっすぐ、立ち上がったミントに駆け寄った。
 その勢いのままミントを抱きしめる。
 荒い息が耳にかかって鼓動の速さが増す。
「ごめん、こんなに待たせて…」
 正面の外野2人がさりげなく背を向けたのを見て、一気に体の熱が上昇する。
「あのっ。クレスさん」
 小さく抵抗を試みるも、徒労に終わった。
 しかもさらに腕の力は強まってしまい、ミントは完全に動けない。
「1時間も待たせるなんて…女性に対してなんて失礼なことを…」 
 混乱に陥ったミントに、マスターが背をむけたまま何かを掲げた。
(スケッチブック…『とりあえず何か言って』…?)
 慌ててその指示を実行する。
「あっあの、クレスさん」
「なんだい?」
「事情が、あったんでしょう? 聞きますからその…とりあえず座りましょう」
「ああ…。ごめん」
 クレスが腕の力を緩めたので、ミントはやっと彼の顔を見ることができた。
 12月の風を切って全速力で駆けてきてくれたのだろう。
 椅子に座って息を吐き出したクレスの真っ赤な頬に手を伸ばす。
「ごめんなさい、急がせて…」
「いいんだ。ミントのためならなんてことないよ。もともと僕が悪いんだし」
「いいえ。こんな頬になるまで走ってくれて…。すごく嬉しい。ありがとうございます」
 コーヒーが運ばれてきたので、ミントは伸ばした手を急いで引っ込めた。
「お疲れ様です。どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 カップの受け渡しの向こう、マスターがウインクしたのを見てミントはかすかに笑った。
 三口ほどコーヒーを飲んでから、クレスは口を開いた。
「ええと…。まず家を出てからすぐに、横断歩道でみかんをばらまいちゃったおばあさんと
会って、荷物が重そうだったから家まで運んであげたんだ」
 ここまでは15分前には間に合わなくても、待ち合わせの時間には支障のない時刻だった。
「そこから…お母さんとはぐれたっていう迷子に会って…。全然泣き止んでくれなくて、
それらしい人も見当たらなくてどうしようもなくなってさ」
 会ったのがスーパーの近くだったので、とりあえずスーパーの中へ入り店員に説明すると
母親という女性がすぐに駆けつけてくれた。
 この時点ですでに30分遅刻。
「それで…まあここからは電車だったんだけど、この電車が急病人で15分遅れたんだ」
 ちなみに最寄り駅から喫茶店までは、歩いて5分。
 だから遅刻は40分弱でとどまるはずだったのだが。
「極めつけに道路工事で迂回させられたんだ」
 そしてもとの道にもどって全力疾走。
 計、60分の遅刻。
「なんていうか…クレスくん、不運だね…」
「本当。普通そんなにいっぺんに重ならないものなのに」
 マスターとウエイトレスが同情の目を向ける。
「それでも…ここまで走ってきてくれましたから。だからいいんです」
 こうして会えたのだから。
 そう言って微笑むミントに、クレスも笑い返す。
「ありがとう…よし、今日はミントの希望を全部聞くよ。僕にできることならなんでもするから」
「まぁ、そんな、駄目です」
「いいんだ。ミントには笑っていてほしいんだ。僕も幸せになれる。…今日に限ったことじゃないけど、
でもあんな顔させたせめてものお詫びがしたいんだ」
 たしかにクレスの姿を見るまでは気が気でなかったが、ミントとしては自分を呼んで、まっすぐに
駆け寄られて、抱きしめてもらえただけでもう十分だった。
(でもあまり拒否するのも、クレスさんががっかりしてしまうし…)
 それは避けたい。
 少し考えてから、ミントは「では」と言った。
「クレスさんの希望を、半分叶えさせてください」
「へ?」
 予想だにしていなかったのか、クレスがきょとんとした。
「私の希望です。最初に、この約束をしてくださいませんか?」
 ミントの希望をクレスが半分叶える。
 クレスの希望をミントが半分叶える。
 そうすれば問題ないのだ。
「はっはっは。これはミントちゃんのが上手だったね、クレス」
「……そうみたいですね」
 苦笑交じりにマスターに答え、クレスはうなずいた。
「わかった。約束するよ」
「ありがとうございます。じゃあ今度はクレスさんの番です。なにかできること
ありますか?」
「そうだなぁ…。歩きながら考えるよ」
 困ったように笑うクレスに、ミントも微笑み返す。
「はい」
 マスターたちに礼を述べ、会計を済ませて外に出る。
「ミント」
 空を仰いだミントに、クレスが声をかけた。
「僕の最初の希望。…いいかな?」
「はい。なんですか?」
 首をかしげたミントに、クレスがそっと左手を差し出した。
 意図に気づいて、ミントの頬が薄く染まる。
「……駄目、かな」
「いいえっ。全然!」
 勢い込んで言ってしまってから、ミントはハッと右手で口を押さえた。
 真っ赤になったミントに、クレスが嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をする。
 そっと彼女の右手を取り、もう一度笑いかける。
「行こう」
「……はい」
 花が咲くように笑ったミントの手をゆっくり引いて、クレスは歩き出した。



 灰色の空の下。
 隣にあるぬくもりは、冬の贈り物。


えー。なんていうか…。こんな糖分いっぱいになるのは私も想定外でした。
やばいマジで砂糖吐きそう・・・(やめなさい)
 

友人が今月18日に誕生日でして、サイトでも別にプレゼントを!と思いまして。
クレミンは扱ってはいませんが特別にアップしました。言葉遣い変だったらどうしよ…。(超不安)
でも書いてて楽しかったのも本当(笑)でもこれ打ってるの、じつは大学です。学業無視ですね!!←
とりあえず終わります。誕生日おめでとうマイフレンド!