そう思うあなたがキレイな人

 

            君は美し

「ティアってきれいだよな」
 魔物との戦闘後。
 負傷したしたところをティアとナタリアに治癒してもらっていたときのことだ。
 唐突にルークが言った。
「……は?」
 仲間が異口同音に間の抜けた声をあげる。ティアが真っ赤になった。
「な、何を言っているのあなたは!」
 その言葉に、ルークは自分の言ったことに気がついたらしい。
 ティアと同じくらい真っ赤になると、しどろもどろで弁解を試みる。
「あ、いや、そのっ」
「変なこと言わないで、馬鹿」
「ご、ごめん」
 一連のやり取りを見ていた他のメンバーは、そろってため息をついたのだった。

「ルークって素直すぎるんだよ」
「だなぁ」
「ティアの性格からして、あの言葉は当然ですわね」
「そもそも戦闘後にどうしてあんな言葉が出てくるのかが疑問です」
 ティアが近くの川へ水を汲みに行った後、残ったメンバーは口々に言った。
 と言っても責めているわけでは決してなく、むしろ冷やかしに近いものだった。
 それがわかっているルークは、頭を抱えて真っ赤になった。
「だぁぁっ。うるせーな! ついぽろっと言っちまったんだからしかたないだろ!」
 つい。ぽろっと。
 ルーク自身も完全なる予想外な出来事だったらしい。
「で、なんでいきなりそんなこと思ったの?」
 アニスが首をかしげると、ルークはうつむいてもごもご言った。
「なんですのルーク。きちんと言ってくださらないとわかりませんわ」
 腰に手を当てたナタリアが詰め寄る。
「だ、だからっ。……譜歌歌ってるティアがきれいだなって…思ったから…」
 一同に沈黙が流れた。
「……ルーク」
「なんだよ」
「大きくなったなぁ」
 ガイの突然の言葉に、ルークは「はぁ?」と素っ頓狂な声を出した。
「本当ですわね。あのルークが、よくここまで成長したものですわ」
「ナタリアまでなんだよ!」
「ほんとだよね。でもルーク」
 うんうん、とうなずいてからアニスはびしっと指を突きつけた。
「あーゆー場面でティアがどんな反応するか考えなきゃね」
「嬉しくても照れ隠しでつっけんどんになってしまうのがティアですものね」
 苦笑とともにナタリアも言った。
「ってことだ。もう一回、その辺考えて伝えてみろよ」
 さわやかに笑って、ガイはとんでもないことを言った。
「もう一回…?」
 先程の「変なこと言わないで、馬鹿」発言を思い出し、ルークは渋い顔をした。
「きっと喜びますよ。保障します」
 ジェイドが薄く笑みを浮かべて言った。
「褒め言葉には違いありませんし、我々の誰が言うよりもルークの言葉が一番響くはずですから」
 ティアの気持ちがわかる面々は頷く。
 ただ一人わからないルークは首をかしげていたが、やがて一つ頷いた。

(……何やってるのかしら)
 自己嫌悪に浸りながら、ティアは川べりに座っていた。
 どうしてあんな態度になってしまうのだろう。彼がくれた言葉なのに。
(ばかって…私…。本当に可愛くないわ…)
 馬鹿なのは自分だ。素直に礼もいえないなんて、なんて女なのだろう。

 全然、綺麗じゃない。

 小さく息を吐いて、吸って、ティアはそっと譜歌を歌い始めた。
 子供の頃、繰り返し兄が歌ってくれた歌。優しい調べはいつもティアの心を癒してくれた。
 譜歌を歌っていると、自然にうつむいていた顔が前を向く。
(……謝らなきゃ、ルークに)
 そしてできれば、とても嬉しかったと伝えたい。
 最後の音まで響かせてから、ティアはくるりと後ろを向いた。
「! ルーク…」
「あ、あーと、ごめん。なんか声かけにくくて」
 木の陰に隠れるように立っていたルークは、おそるおそるティアへ歩み寄る。
「あのさ、ティア」
「ごめんなさいルーク!」
 突然頭を下げたティアに、ルークは一瞬呆然とした。
「私、あの、さっきはひどいこと言ってしまったから。ごめんなさい」
 言葉に詰まりながらティアは言い募った。
 ルークはぽかんとしていたが、頭をかきながら視線を泳がせて言った。
「いや、あの、俺もごめん。さっき言いたかったのはさ、譜歌歌ってるティアが、その…
綺麗だなって思って。ただそれだけだったんだけど、うん。ええと…」
 なんと言えばいいのか困り果て、ルークは頬をかきながらあらぬほうを見やった。
 下げていた頭を上げて、ティアはルークの横顔を見る。
 どきどきする胸を押さえて、ティアは意を決した。
「さっきのその言葉…すごく嬉しかったわ。…ありがと…」
 後半は消え入るような声になってしまったが、ティアとしては最大限の努力で言った。
「よかった。びっくりさせて、ほんとにごめん」
「ほ、本当よ。びっくり、したんだから…」
 本当に本当にびっくりして。今でも鼓動は落ち着かなくて。
「でも」
「うん?」
 胸の前で両手を握り締めて、もう一度うつむいて、ティアは小さく言った。
「私は…そう思ってくれたルークの心がきれいだと思うわ…」

 見るものも聞くものも、すべてその人の心のあり方しだい。
 ならば、自分の譜歌をきれいだといってくれたルークの心もまた、きれいだと思う。
「……なら、やっぱりティアはきれいだよ」
「えっ?」
 再び顔を赤くしたティアが顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべたルークがいた。
「俺のことそう言ってくれるティアの心も、きれいだってことだろ?」

 

ルークがティアのことほめて、それに照れるティアが書きたいなーと思ってできたモノ。
あっれー…ティアってこんな子だっけ…。(毎回思うキャラ崩しの不安)
ちょっと打ち直しもしましたが、結局のところお互いがお互いのこと好きってことです。(無理やり)