「ね、クラトス」
自分より2、3歩先を歩く彼女が、振り返って笑った。
陽だまりのような笑顔がまぶしい。
「幸せね」
「…そうだな」
やや間があいたのは、アンナの言葉が唐突だったからだ。
牧場から連れ出して、一緒に逃げてきてしばらく経つが、彼女はとても素直でまっすぐで、それゆえに時々つかめない。
「クラトスは私といて…その、嬉しいかしら?」
「どうした、突然」
だって、とアンナはまた前を向いて、少しだけうつむく。
「私はあなたといて楽しいけれど、あなたはどうなのかなって」
「アンナはどう思う」
どう思うって、とアンナは考えた。
普段クラトスはとても無口だ。人に言わせれば愛想が欠片もない。
けれど時々、とても微弱ではあるが感情が前に出る。
少し目元が和んだり、眉根を寄せたり。そんな彼の表情ひとつひとつがとても愛しい。
自分たちの旅は安穏なものではない。
だがその中ででも、アンナは笑っていたかった。
ああ、そう。
最初にクラトスの感情が見えたのが、牧場に出てから初めて笑った日だった。
『ようやく笑った』
ただ一言だけ。その言葉だけだったけれど、とても深い優しさが見えた。
アンナが笑うと、クラトスの眼の奥が優しくなる。
それが嬉しいから、アンナは笑うのだ。
「……そうだったらいいなって、思うわ」
「ならそれが正解だ」
そう言って、クラトスはふいっと空を仰いだ。
同じように、アンナも空を見上げる。
青くて、どこまでも続く空。
「――――色が違って見える」
「?」
言葉の真意がつかめなくて、アンナはクラトスを見る。
「見たことのある景色が、アンナといると違って見える。これは、そういうことだろうか」
「そういうことって?」
「お前を愛している、ということだろうか」
真剣そのもので、真正面から言われたアンナは、数瞬呼吸を忘れた。
硬直したアンナに、さらにクラトスは問う。
無自覚か故意にかわからないその表情で、熱でくらくらしそうな言葉を。
「結婚してほしいと言ったら、許してくれるだろうか」
「……っ」
両手で顔を覆ったアンナは、こくりとうなずいた。
それから真っ赤になった顔をあげて、笑った。
「許すも何もないわ。――――大好きよ、クラトス」
ずっとずっと、愛してる
最後のエピソードです。いろいろ迷って、クラトスさんとアンナさんにしました。…なんだかワンパターンに
なってる気がしなくもない……。
クラトスは直球でプロポーズしてたらいいな!アンナさんも照れながらすぐにOK出してればいいな!という
思いで書きました。この2人大好きです…!書けなかった面々ごめんなさい;;アシュナタとかカロナンとか
フレリタとかフレジュとかいろいろ考えてたんですが、まあ彼らはまたの機会に。
1ヶ月行ってきましたジューンブライド企画、いかがでしたか?心に残るような作品が一つでも見つけられたら
嬉しいです。