不思議の国のアリスin TALES OF THE ABYSS

 *ED後、ルークもアッシュもかえってきたという前提のパロディです。       
       
       
       
「遅いですわね」       
 何度目かのため息とともに、ナタリアはつぶやいた。       
 手に持っていたカップをティーコゼーに戻し、頬杖をつく。       
 一連の動作もこれまた何度目か。       
 ティアは苦笑してなだめるように言った。       
「たぶん二人で来るのだと思うわ。簡単にはいかないでしょうに」       
 絶対そのほうが喜ぶって! となんとか説得を試みるルークと、誰がお前となんか行くかと       
怒鳴るアッシュが想像できる。       
「ルークも諦めが悪いですわね。アッシュがどんな反応をするか分かっているはずなのに」       
「ナタリアが喜ぶことを知っていれば、ルークはやめないわよ」
 そしてその言葉にアッシュが弱いのも、確実に分かっている。
 だからこそ余計にアッシュが頑なになるのだ。
「そんなこと言われたら、もう何も言えないですわ」
 自分のことを思ってやってくれているなら、そう文句ばかりも言えない。
 ナタリアは横に目を向けた。――――早く会いたい。
 城内の庭園にある東屋。久しぶりに会えることになったナタリアとティアはそこでのんびりと
お茶を飲んでいた。
 ちょうどそこへ、ルークがナタリアに相談したいことがあるからと手紙をよこしたのだ。
 そこまではよかったのだが、ルークが書いた時間からもう30分も過ぎている。
 小さくあくびをこぼし、それをティアが見ていたことに気づくとナタリアは慌てて謝る。
「あ…ごめんなさい」
「あくびくらいしたって構わないわ。それより、ちゃんと睡眠は取ってる?」
「ええ。大丈夫ですわ。昨夜は眠るのが少し遅かっただけですから」
 ティアは「そう」とだけ言って焼き菓子をつまむ。
 見たところ顔色もいいし、瞳もしっかりとした光を持っている。
 虚勢ではないから、本当に大丈夫なのだろう。
 ――――少し前。ルークとアッシュが帰ってくる前まではだいぶまいっていたようだが。
 それは口に出さず、ティアは微笑みながら言った。
「夢を見ながら待っていられたらよかったわね」
「そうですわね。ティアならどんな夢がいいですの?」
 ふと思いついて、ナタリアは尋ねた。
「……絶対にありえない夢よ。笑わない?」
「もちろんですわ。夢ですもの」
 大きくうなずいたナタリアに、ティアは少しうつむきがちに小さく言った。
「ガラスの靴の女の子の話よ。小さい頃兄さんが教えてくれた、大好きな話…。知ってる?」
「ええ。魔法使いの力で舞踏会に行って、そこでガラスの靴を落として帰って来た少女を、
国の王子が見つけて結婚するお話でしょう? わたくしも大好きですもの」
 もっとも、自分にはアッシュという許婚がいるのだから、ありえない話だけれど。
「ティアがその少女なら、お相手はルークですわね」
「別に、ルークじゃなくたっていいのよ」
 赤くなりながらつんっとすまして言うティア。
「だってほかにいないですわよ。ジェイドでは不自然ですし、…あ、ガイはどうです?」   
「そんなおまけみたいに言ったらガイに失礼よ。それより、ナタリアは?」   
「わたくしは……そうですわね。不思議の国に行ってみたいですわ。王女ではなく普通の少女   
になって、たくさんのものを見て、今後の国づくりの参考にしますわ」   
 青いエプロンドレスの少女の話だと、ティアもすぐ分かった。けれど。   
「それじゃ、今とあまり変わらないんじゃない?」   
 あら、と口を押さえて、ナタリアは照れたように笑った。   

   

 

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