君が笑ってくれるなら

 

 

 


 何度だって約束するよ。
 そのために、オレは来たんだ。
 コレットはオレが守る。

 


交響曲第50番「赤の騎士」第0楽章

 

「わたしね、ロイドのおかえりが好きなの。ロイドがそう言ってくれるとすごく嬉しい」
 コレットが顔をほころばせる。
 ミトス…はもういないな。
 よかった。コレットが戻ってきた。
 ――――それよりも、オレが言うおかえりが好きって、どういう意味だ?
 誰でも言ってやれるセリフだし、それにコレットがここに帰って来た。
 いや、オレの目が届くところに取り戻した、か?
 どっちでもいいか。あんまり変わんねーし。
「コレットはここに戻ってきただろ? だからおかえり、だけど…変かな」
「違うよ。全然変じゃない。いつだってそうやってロイドが笑って迎えてくれるから、
わたしはどこに行っても、どこにいてもだいじょぶなんだよ。ロイドが笑ってくれると
ね、胸の辺りがふわっとあったかくなるの」
「そんなの、オレだって一緒だ」
 コレットが笑ってるのが好きだ。
 すっげー嬉しくなる。なんかなんでもできそうな気がしてくるんだ。
 ずっと見ていられたらいいなって…いつも思う。
「わたしが正気を取り戻した時も、おかえりって言ってくれたでしょ?」
「…フウジ山岳の時か」
「うん。あと…フラノールの街でも」
「あぁ、あの雪の日だな。覚えてる」
 あの夜は、コレットが雪が降ってるって部屋に来て一緒に外に出たんだよな。

 

 

「――――ねぇロイド! 街が一面真っ白になってるよ! 早く来て!」
 オレを振り返りながら、コレットが先を走ってく。
 一応、外套は着てるけど…寒い…。
「わかったって。あんまり急ぐと転ぶぞ。こんなさみぃのに元気だな、コレット」
「だって、寒いってわかるんだもん。嬉しくて」
「…そっか。ちょっと前まではそれもわかんなかったんだもんな」
 笑わないし、しゃべらない。
 やっぱ、あんなの本当のコレットじゃない。
 天使なんかより、こっちのコレットのがずっといいよ。
 フラノールの街を、コレットと見渡す。
 吐く息が真っ白だし、耳はじんじんしてる。
「イセリアは季候がいいもんね。雪なんてほとんど降らないから、新鮮」
 空を見上げて、コレットがくるりと一回転した。
 同じように空を見上げてみる。
 ――――ずいぶん、高いところから降ってきてるんだな。
 たしかに珍しい景色だ。けっこうきれいな街だし、外に出てよかったかもな。
「寒くないか? コレット」
「寒い…けど、平気」
「何言ってんだよ、首元めちゃくちゃ寒そうじゃねーか」
 首までしっかり覆われてるオレに比べて、こいつの服はイセリア向けだ。
 いくら感覚戻って嬉しくても、風邪引いちまう。
「じゃあ…ちょっと近くに行ってもいい?」
「いいけど、それで大丈夫か?」
「うん」
 かすかにコレットの腕が触れる。
 ……なんか、あんま変わった気がしないんだけど…。
「ねえ、ロイド」
「ん?」
「クラトスさんって、素敵な人だね」
 穏やかな口調でコレットが言った。
 ――――クラトスか。
 ずっと一緒に旅をしてきて、オレに剣の稽古をつけてくれて。
 でも、コレットが天使になるように見張ってて…オレたちを裏切ってて。
 ――――オレの、父さん。
「でも…あいつは…母さんを怪物にしやがったその元凶に仕えてる」
「でも何度も助けてくれたよ。ロイドのことも、守ってくれたし。大切じゃないなら
…きっとできないことなんじゃないかな…」
「それは…」
 あの時、ユアンの攻撃から守ってくれたのはたしかにクラトスだ。
『無事か? ……なら、いい』
 あの顔が、今も忘れられない。
 あの鉄面皮なクラトスが、絶対痛いのに笑ってそう言った。
 だから、オレはユアンの言葉が嘘でも冗談でもないって確信したんだ。
 クラトス…何考えてるんだよ。


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