NO.8

 空が茜色に染まり始めたころ。一向はトランプの城の目指して歩いていた。   
 「ねぇ大佐」   
 ふとアニスがジェイドを呼んだ。   
「アッシュって意地っ張りだよね」
 困ったもんだ、と言いたげにアニスは肩をすくめながら前方に目をやる。
 前を歩くガイ、ナタリア、アッシュを見ながらジェイドはうなずいた。
「出会ったころからそうでしたね。でもだいぶ軟化してきましたか」
 ガイがナタリアに何か言い、それにナタリアがくすくす笑ってアッシュに同意をもとめるように
話しかける。
 不機嫌そうな表情ではあるが、それでもきちんと会話をしている。
 これがもしルークだったら隣に並ぶこともないだろう。
「ナタリアにもっとこの世界を楽しんでもらいたいから、自分を手伝わなくてもいいんだって、
そう言えばいいのに」
「ひねくれてますねぇ」
「大佐もひねくれてますよぉ」
 アニスがアッシュに渡された書類を見ながらさも当然というように言った。
「まぁ素直な我々なんて変ですしねぇ」
「あ、それ賛成~」
 アニスが空いているほうの手をひらひら振った。
「なにのんきに話してる! 予算案以外にもやることがあったんじゃないのか!?」
 前にいたアッシュがアニスに怒鳴る。
「いいじゃん、せっかくナタリアが来てくれたんだからさ。それに今日の政務はもう終わり。部屋
に戻っていいよ」
 あっさり言ったアニスを見て、アッシュは一瞬絶句した。
「そうなんですか?」
「うん。ナタリアも泊まっていっていいから。部屋はたくさんあるけど…せっかくならアッシュの
部屋の近くにしよっか」
 立ち止まっていた三人に追いついたアニスはにやりと笑って言った。
「泊めていただけるならどこでもいいですわ。ありがとうございます」
「もうすぐ夜になる。お前一人を放り出すことはできないからな」
 いたって普通な反応の二人に、アニスはがっかりしたように言った。
「なぁんだ、つまんない。ちょっとは動揺すると思ったのに」
「まぁ、なぜです? わたくしたちは婚約者なのですから、そんなことで照れませんわよ」
「つまらないことを考えていないで、そこらへんの兵に伝言でも頼んでおけ」
 それだけ言うと、アッシュはまた歩き出してしまった。それをナタリアが小走りで追いかける。
 その様子を見ていたガイは目を丸くした。   
「ナタリアはともかく、アッシュが平静を保つとは」   
「もともとアッシュは最初の要求を退けた時点で、ナタリアを迎えに行くつもりだったんですよ。   
交渉がすみ、ナタリアがルークたちと別れてから。そのために私は別行動をとったんですが…」   
 ジェイドはため息をついた。   
「それを知らないアニスがアッシュを呼びつけた? 難儀だな、ジェイド」   
 苦笑いを浮かべて、ガイはポン、とジェイドの肩を叩いた。   
「アニスに知らせておくべきでした。スケジュール管理ができなかった私の責任です。気がついた   
時には別れた後でして。ガイたちが来たとき不機嫌だったのは、たぶんそれが原因でしょうね」   
 必ず会えると分かっていれば、動揺もしない。まして迎えにまで行こうとしたくらいだ。   
 とはいえ。   
「婚約者っていうより、すでに夫婦みたいだな」   
「同感です」   

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