NO.4

「……ごちそうさまでした。そろそろ行きましょうか、ナタリア」        
「ええ。ルーク、ティア、ありがとう」        
 カタン、と立ちあがった2人に、ルークは満面の笑顔になる。        
「アッシュもたぶん待ってるよ」        
「はやく追いつけるといいわね」        
 ティアも微笑みながら言った。        
「ええ。必ず捕まえてみせますわ!」        
 気合十分な笑顔で言ったナタリアに、(その言い方だと本当に告白みたいだけど…)とその場        
の全員が思った。        
「ああ、そうそう。これを持っていって。きっと役に立つわ」        
 差し出された袋の中身はチーグルの形をしたクッキー。小さなドライフルーツが目になっている。        
「可愛いですわ。食べるのがもったいないくらいですわね、ジェイド」        
「たしかに可愛いですが、せっかくの食べ物です。跡形もなくきれいに食べましょう」        
 さらりと若干そら恐ろしい言葉も混ぜつつ、ジェイドは薄く笑った。        
 ……振った相手を間違った。        
        
      ◇     
        
 ルークたちと別れ、ナタリアは先へ歩く。        
「ジェイド、ひとつ確認しておきたいのですが」        
 しばらくたって、ナタリアが口を開いた。        
「なんですか?」        
「もしかしてまだ会っていないシロウサギとは、アッシュなのではありませんか?」        
 でなければおかしい。冒頭部分でいろいろ渋ったのも、茶会からすぐ去ったのも。        
 そして、シロウサギといまだに会えないのも。        
「ええ、そうです。本人は最後まで渋ってましたが」        
「というよりジェイド、あなた簡単に説明すると仰っていたのにまともなこと聞いていませんわよ」        
「いえ、ナタリアが問題なく順応しているようでしたので必要ないかと思ったんです」        
「いろいろ思うところはありますが、とんでもない敵に遭遇することは考えられないので冷静で        
いられるだけですわ。この先も進行役とあなたと行動するなら問題ありませんが、やはり最低限        
情報は得ておかなければ」        
 元神託の盾騎士団の面々と出会い戦闘になったりしたら、まったく夢がない。        
「それなんですが…。次の分かれ道でいったん私たちは別行動になります。まぁすぐに合流で        
きますから安心して進んでください」        
 少し申し訳なさそうにジェイドは驚愕の言葉を告げた。        
「それならなおのこと説明がいるではありませんか!」        
「大丈夫です。私の代わりに導いてくれる方がいますから」        
 あれを人といっていいかちょっと微妙ですけど。        
「誰です? …まさか、ディストではありませんわよね?」        
「頼まれたって出しませんよ。――――ああ、ほら見えました。あそこで一旦さよならです」        
 ジェイドから視線を前へ戻すと、数十メートル先で道が二手に分かれていた。        
 だが、代理だという人影は見つからない。        
 木々で見えないのかとも思ったが、分岐点に到着しても見当たらない。        
「いませんわよ。ひょっとして帰ってしまったのではありませんか?」        
「いえいえ、それはありえませんよ。ところでナタリア、原作で少女を導いた気ままな動物は        
何でしょう」        
「ええと…チェシャ猫ですわね。…ということは、キャスティングも含めるとガイがチェシャ猫?」        
「ええ。この道をまっすぐ行けば会えます。それでは」        
「わかりましたわ。またあとで」        
        
      ◇     
        
「……困りましたわ」        
 言われたとおり道をまっすぐ進んでいたナタリアだったが分かれ道に出てしまった。        
 右か左か。どちらに進めばよいのだろう。        
 間違ったほうを選んだ場合、ガイと落ち合えない。        
 少し考えた後、ナタリアは左を選んだ。        
 間違えたら、戻ればいい。せっかくなのだから自分で決めなくては。        
        
 周りが明るくなってきた。先ほどは薄暗かった森の中が、葉と葉の間から漏れてくる光で鮮や        
かな緑であふれている。        
 道際に咲く花も、決して大きくはないが静かに咲き誇っている。        
 歩みを止めずにいたナタリアは、ふと足を止めた。        
 脇の木立から歌声が聞こえる。        
 これは――――譜歌?        
 ソプラノの、あどけない声。ナタリアはこの声を知っている。だが彼は…。        
 ガサッと音がして、二人の少年が現れた。        
 どちらの手にも、どこかで摘んだらしい花が握られている。        
「あっ、ナタリアリスだ!」        
 一方が叫ぶ。        
「こんにちは、ナタリアリス」        
 もう一方が穏やかに挨拶を述べる。        
「え、ええ、こんにちは…ナタリアリス?」        
「この世界の女の子になってるんでしょ?だからくっつけてナタリアリスだよ」        
 最初に叫んだ少年がにこっと笑う。        
 緑色の瞳と、髪。優しげな笑みの少年は、かつての仲間。        
「久しぶりですわね、導師イオン。それから、フローリアン」        
 ナタリアはまぶしそうに微笑んだ。        
 二人ともラインが黄緑、地の色が薄い黄色の、導師によく似た服を着ている。        
 瓜二つの顔で、イオンとフローリアンは笑った。        
「迷子なの? ナタリアリス」        
「迷子…でしょうか。ガイと会わなくてはいけないのですが、どこにいるかご存知?」        
「ガイならこの先にいますよ。案内します」        
「案内します!」        
 フローリアンがナタリアの手を引っ張る。        
「ありがとうございます、導師イオン、フローリアン」   

     

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