NO.6

 木と木の間。ほかとは違い妙に間が広いそこにガイがパチンと指を鳴らすと亀裂が入った。        
「空間に…っ」        
 驚くナタリアの前で、亀裂が何かを形作っていく。        
(ハート…?)        
 あ、とナタリアがひらめいたのとほぼ同時にくりぬかれた部分がばったんと二人の前へ倒れた。        
 その向こうに、一本の道が続いていた。        
 両側にある薔薇は手入れが行き届いており、白と赤とピンクの3色がバランスよく植えられていた。        
「この先にいる。俺もついていくよ」        
「よろしいのですか?」   
 聞き返したナタリアに、ガイはからりと笑った。   
「旅は道連れっていうだろ?それに途中でやめたらアッシュに怒られるよ」   
 本当は心配なのに決して表に出さない。みんな知ってるのになぁとガイはつぶやく。   
「ナタリアが思ってる以上に、アッシュは君のこと考えてる。たぶん世界のうちだと一番に」   
 そうかしら、と首をかしげたナタリアに、ガイは手招きした。   
「さて、そろそろ行こう」   
「あら、女性のエスコートは手招きで終わりですか?」   
 冗談混じりに問うと、ガイが乾いた笑みをこぼす。   
「ま、まあそれは別の機会に…」   
「仕方ありませんわね」   
 肩をすくめて、ナタリアは笑った。   
    
      ◇
   
「アッシュ!」   
 背後から聞こえた声に、アッシュの片眉がぴくりと上がった。
 抜き身の刃のような視線がしかし、わずかに和らいだ。
 一足先にアッシュと合流し、彼の隣にいたジェイドは、愛ですねぇと心の中で感嘆した。
 振り返ったアッシュは少し間を置き、口を開いた。
「…なぜここにいる」
 アッシュを知らない者であれば萎縮しそうな、鋭い視線。しかしナタリアは構わず答える。
「あなたを追いかけてきたのですわ。なにかあったのではなくて?」
 アッシュが単独で行動するときは、なにかが起こったときだ。数年前もそうだった。
「お前には関係ないことだ。あの間抜けと茶でも飲んでいればいいものを」
 冷たく返されて横を向かれたが、ナタリアは別のことを考えていた。
(やっぱり服が白いのはウサギだからでしょうか…)
 デザインは軍服とあまり変わらないが、色がグレーではなく白であり、外側のラインは赤。
 いつもはかけない単眼鏡を左につけている。ジェイドはこのことを言っていたのだろうか。
「アッシュ、そんな言い方はないだろう。ナタリアはごく普通の女の子、つまり一般人だ」
「それを、いくら人使いが荒いとは言っても政務に巻き込むことはできないでしょう。自分のこと
は心配ないから、ルークたちとお茶でも飲んで待っていてくれてかまわない…こんなところです
か。どこか訂正箇所はありますか? アッシュ」
 苦々しげに、ジェイドを睨むアッシュ。余計なことを言うなとでも言いたげだ。
「……待っている必要はない。あの場にレプリカがいるなら俺は絶対行かない」
 ナタリアと目が合ったアッシュはそれだけ言った。つまり、そのほかは二人の言うとおりという
ことだ。
「一般人であってもできることはありますわ。手伝えることがあるならおっしゃって」
 アッシュの手をとって、ナタリアは緑の瞳を見つめる。
「ナタリア…」
 動けなくなったアッシュの背後で、新たな声が聞こえた。

 

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