NO.11

「普通さ、好きな子が寝巻き姿で訪ねてきたら若干パニクると思うんだよね」   
 ひそひそとアニスが言った。   
「アッシュが普通なわけないじゃないですか。というより、本当はこんなことしたくないんですが   
ね。私たちは脇役という名のキューピットですよ。こんな覗き魔ではないはずですが」   
 ジェイドがやれやれ、と眼鏡を押し上げる。   
「ジェイド、あんたの場合は絶対覗き魔のほうだと思うぞ」   
 ガイがため息をつきつつ言った。   
「ガイだってちょっと気になってたくせにー。でも、ちょっといい感じだったよね」   
 アッシュとナタリアからは死角になる場所で、三人は一部始終を聞いていた。   
 三人ともすでに寝る準備万端の格好で。   
 部屋の中での会話は途切れ途切れにしか聞こえなかったのだが、おおまかな流れは予想が   
ついた。   
「にしても、あたしたちに全然気づかないのって問題じゃない? やっぱりそれなりに動揺して   
たのかな」   
 うーん、とうなるアニス。   
「どちらにせよ、まぁ面白かったですよ。これで現実世界でもくっつくといいんですが」   
「そうですねー」   
 ふふふ…と笑う姿は、なんというか怖い。
 これが純粋な好意からなる行動ならば怖くはないが。
 楽しんでいる。思いっきり。   
 ルークとティアはすでに公私ともに認めているので、次はアッシュとナタリアというわけだ。   
「まぁ、気づいてないのは本人たちだけだろうな…」   
 がんばれアッシュ、ナタリア。   
 アニスとジェイドの最強コンビの次なる作戦を聞きながら、ガイは心の中でエールを送った。   
   
      
   
 声が聞こえる。   
 水を通したように不鮮明な声が。   
 呼ばれている。行かなければ。   
 その世界に、きっと彼がいるから。   


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