「普通さ、好きな子が寝巻き姿で訪ねてきたら若干パニクると思うんだよね」
ひそひそとアニスが言った。
「アッシュが普通なわけないじゃないですか。というより、本当はこんなことしたくないんですが
ね。私たちは脇役という名のキューピットですよ。こんな覗き魔ではないはずですが」
ジェイドがやれやれ、と眼鏡を押し上げる。
「ジェイド、あんたの場合は絶対覗き魔のほうだと思うぞ」
ガイがため息をつきつつ言った。
「ガイだってちょっと気になってたくせにー。でも、ちょっといい感じだったよね」
アッシュとナタリアからは死角になる場所で、三人は一部始終を聞いていた。
三人ともすでに寝る準備万端の格好で。
部屋の中での会話は途切れ途切れにしか聞こえなかったのだが、おおまかな流れは予想が
ついた。
「にしても、あたしたちに全然気づかないのって問題じゃない? やっぱりそれなりに動揺して
たのかな」
うーん、とうなるアニス。
「どちらにせよ、まぁ面白かったですよ。これで現実世界でもくっつくといいんですが」
「そうですねー」
ふふふ…と笑う姿は、なんというか怖い。
これが純粋な好意からなる行動ならば怖くはないが。
楽しんでいる。思いっきり。
ルークとティアはすでに公私ともに認めているので、次はアッシュとナタリアというわけだ。
「まぁ、気づいてないのは本人たちだけだろうな…」
がんばれアッシュ、ナタリア。
アニスとジェイドの最強コンビの次なる作戦を聞きながら、ガイは心の中でエールを送った。
声が聞こえる。
水を通したように不鮮明な声が。
呼ばれている。行かなければ。
その世界に、きっと彼がいるから。